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教育トレンド

大学の秋入学で大学改革が進むか

東京大学が、五年後を目標に全学部を秋季入学(九月入学)に移行するとの構想を発表した。
日本の国立大学は全八十六校あるが、そのうちの八十一大学が参加した国立大学協会の総会が都内で開催された中で、東大の濱田純一学長が発表した。
背景には「グローバル化対応、大学改革を進める」という狙いがある、と説明した。 

大学改革に反対する大学はなかったが、秋入学には慎重論も出ていたという。大学改革には賛成だが、秋入学はあくまで、大学を変える手段の一つである、というものだ。また、鹿児島大学の吉田浩己学長は「地方大学にとってもグローバル化は必要だが、自分の大学では、日本と同じ入学時期の東南アジアからの留学生が多いのが実情だ。もし秋入学をするなら、大学だけでなく、社会全体が変わる必要がある」と述べた。

 大学教育が専門の桜美林大学大学院の舘昭教授は、「大学を改革する手段として、東京大学が秋入学構想を出したこと自体は評価する、が、個々の大学の事情は異なるはずだから、横並びで実施するのはおかしい」と課題を提示した。
大学の秋季入学はここ数年前から国際化に対応するための措置として政府の審議会などで何度か提言されてきたことだ。

しかし、今回は東大が自ら言いだしたということで、その影響力から社会問題となっている。現に、現在でも追随することを表明しているのは、私立の雄、早稲田大学、慶応大学とあって、これは、一部の大学が秋入学に移行するというだけの問題ではなく、大学入試を含む高校以下の教育の在り方や、大学新卒者の就職採用にもおよぶことで、日本の社会全体にかかわる問題に発展する内容を含んでいる。

■全国百七十四大学への調査
この秋入学への全面移行について、朝日新聞が、一学年の学生の定員が千人以上の全国の百七十四大学の学長にアンケートを実施し、九十六%、百六十七人から回答を得。
その結果をみると、四十六%にあたる七十六人が「導入を検討する」と回答をしたようだ。ただ、現時点で全面移行を「評価する」と答えたのはそのうちの約六割で、推移を見守る姿勢もうかがい知れる。

自校での導入は、「検討予定がある」が七十六人(約四十六%)、「ない」が二十九人(約一八%)、「どちらでもない」が六十一人(約三十七%)だった。
 ただ、自校でも検討すると答えた七十六人のうち、秋入学移行を「評価する」のは四十六人である。評価は「どちらでもない」とした二十九人の中には、「春入学を全廃させての秋入学への全面移行には議論の余地がある」(上智大)、「全面移行による社会的影響が検討されていない」(愛知工業大)などの意見があった。

■世界的には秋入学が主流
文部科学省の調べによると世界の二百十五か国中、秋入学(九月か一〇月)を実施している国は七割近くを占めており、四月入学の国は日本やインドなどの七か国で約三%に過ぎない少数派だ。近年、大学の国際ランキングで東大の国際ランクも下がり続けている。QS 世界大学ランキング(World University Rankings)は、毎年、世界の大学のランキングをしているが、二〇〇四年には世界一二位だったが、二〇一一年には二十五位にまで下がってしまった。

数年前から、日本の大学生の内向き志向が指摘されてきた。海外にでるよりも日本国内にとどまる学生が多く、競争の中に身を置かない。海外の優秀な学生との切磋琢磨がないために、学力も低下。受験戦争を勝ち抜いてきただけの学生は、他流試合に弱く、コミュニケーション能力にも弱く、脆弱である。大学が世界の大学と物理的に歩調を合わせることで、人材交流が否応なく活発化し、いわば外圧によって国際性も身に付くのではないか、と踏んでいるようだ。

では、優秀な学生を欲する企業の反応はどうか。朝日新聞社が国内の主要100社に新卒採用での対応を聞いたところ、そのうち六割の企業が「採用時期を見直す」と答えた。現在は春採用が中心だが、秋採用の枠を設けたり、応募を随時受け付ける通年採用に切り替えたりすることを検討しているという。  秋入学が広がった場合、採用時期を「見直す」とした企業は六十一社にのぼった。海外で事業展開をしようとする企業が春と秋の二回の採用を検討するなど、優秀な学生の確保を狙っている。

 現状でも、企業のグローバル化の中で積極的に海外に人材を得ようとする企業や、日本国内で英語を社内公用語にしようとする企業もでている。
経済同友会でも、東大のこの動きに賛成のようである。

■課題は多々ある
課題も多く残る。企業の新卒採用時期と秋季入学者の卒業時期のずれ、高校を卒業してから大学入学までの半年間の空白(ギャップターム)をどうするか。
大学のみが秋入学となっても、その下の学校がかわらなければそのギャップはどうすればよいのか。

学生が、入学しない半年間の間、家庭の教育費用負担は増加するという経済的問題もある。
加えて、東大などの都市部にある大学は国際化に対応が必要なことも多々あるだろうか、日本の大学全体を見れば、全ての大学が一気に秋入学になる必要性はあるのかどうか。

現状、日本の教育そのものが、大学を筆頭にして疲弊の状況を呈している。
初等教育段階から、学力低下を引き起こし、子どもの心の充実が図れていない、教師たちの質の確保課題、家庭教育力の減退、問題行動。高等教育では、学生の質の低下、諸外国と比較して大学院生の人口比率からの低さ。教育の機会均等が失なわれている現実など、解決を要する課題が山積みである。

ことに、大学の質の充実はその国の科学技術や文化、芸術におよぶレベルの確保という極めて重要なソフト面の役割を担う。
都内で二十年間、中高生徒を指導する知人の学習塾のオーナーに秋入学のことを聞いてみたところ、一番気にかけていたのは、「学校にいる期間が長くなる分の家庭の教育費用への負担があるだろう。それから就職のことが大きいのではないか。今でも、その大学で何をすれば、どういったところに就職ができるか、ということが親御さんの関心ごと。今回は、東大がやるとなったから他の大学への波及効果は大きい。学習塾としては、高校までの教育制度がかわらないのなら、短期的には大きい変化はなさそうです」といった意見だった。

日本の教育の閉塞感やもろもろの打破という多くの教育課題のある中で、明るみになった大学の秋入学問題。しかし、筆者はこれがすべての事柄の解決になるはずもないと強く感じる。ひとつの教育姿勢が根付き、人材となるまでには一〇単位での期間を要する。
例えば「ゆとり教育」が全盛の時に義務教育を受けていた子どもたちが今、どうなっているか。総合的学習がもてはやされたが、いま、小中学校での総合的な学習がどうなっているか。検証もなきまま、過ぎていくことに危惧を感じる。
国立大学協会では、今後内部の委員会で検討するのだということだが、
ぜひ、議論百出させて公開していって、基本的な解決を目指していってもらいたい。
(了)

*参考:QS 世界大学ランキング(World University Rankings)
一位 ケンブリッジ大学(イギリス)、二位 ハーバード大学(アメリカ)、
三位 マサチューセッツ工科大学(MIT)(アメリカ)。4位 イギリス・ロンドン大学
5位 アメリカ・マサチューセッツ工科大学、6位 イギリス・オックスフォード大学
7位 イギリス・インペリアルカレッジ・ロンドン、8位 アメリカ・シカゴ大学
9位 アメリカ・カリフォルニア工科大学、10位 アメリカ・プリンストン大学
アジアでは、香港大学が二十二位でアジアの一番となっている。

月刊カレント 2012年4月 教育欄


 


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