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教育トレンド

日本の大学は如何に生き残れるのか ~官民一体の将来像はどうなるだろう?

■科学技術立国はどこへ?
日本の近代化は、「科学技術立国」を標榜して世界的にも力をつけてきたという経緯があった。しかし、このところの世界の趨勢からみると、その基盤の劣化が指摘されている。
数々の指標からみると、日本の教育の質の変化、低下が浮かび上がる。
 まず1)科学論文数の世界シェアの後退=世界で引用される論文件数では、日本は一九九五年には二位であったが二〇一五年には五位に後退した。(文科省「科学研究のベンチャーマーキング2017」資料から)、
2)国からの運営交付金の減少=二〇〇四年には一・二兆円を超えていたのだが、二〇一七年では2千億円が減少した。また、大学は独立行政法人化して競争原理を導入したので国立大学は運営交付金に頼らずに、民間企業のように努力して研究資金を調達することが必要となった。その結果、競争原理の中で、国立とはいえ学校格差が生じたため、上位大学は良いのだが、中から下位となった大学の研究力の低下を招いた。中堅大学が築いた大学力の低下、下落が顕著である。
3)国内での数字だが、科学研究論文の設置別割合では全体が六万四千件余であったものが、この一〇年で約三万八千件の減少をした。減少の三万千八百件は国立大学が論文を書かなくなったからである。国内での大学の状況からみても、勢いは減じている。

 世界レベルでも、全米科学財団(National Science Foundation, NSF)が、世界の科学技術の動向をまとめた報告書Science and Engineering Indicators・二〇一八年.によれば、二〇一六年の論文数世界ランキングで、日本は六位。論文数ランキング世界一位は中国 、以下、二位アメリカ、三位.インド、四位.ドイツ、五位.イギリス、六位.日本、七位.フランス、八位.イタリア、九位韓国、一〇位.ロシアとなっている。論文総数が減少傾向にある国は日本だけである。前回の同調査では日本は三位であったから、かなり抜かれてしまったことが分かる。世界の勢いから取り残されていくようである。

■大学改革の波
 このような状況の中、大学改革は大きな課題である。二〇四〇年には、大学入学人口が現在から二〇%減少して、五十一万人になるという試算もある。
そこで、先頃の文科省の将来構想部会では、大学の機能分化につき三つの類型を示した。それは
「世界的研究・教育の拠点」「高度な教養と専門性を備えた人材の育成」「職業実践能力の養成」の3観点である。
内容を説明すると、「①世界的研究・教育拠点」は大学院教育が中心で、世界的な水準の研究を担う。同じ類型の大学同士での連携が想定されている。
 「②高度な教養と専門性を備えた人材の育成」は学部~修士・専門職大学院の教育が中心。各分野を先導する研究、国際展開を見据えた連携を行う。
 「③職業実践能力の養成」は学部段階の教育が中心で、地域課題に対応した研究を担う。経営基盤が弱い小規模大学の場合、各大学が強みとする部分を提供・共有し、補完し合う連携が想定されている。
社会人のうち、高度な研究能力を必要とする人材は①または②の大学で受け入れ、地域課題に対応できる職業能力や幅広い教養を求める人材は②または③の大学で受け入れる。留学生について、③の大学は主に資格や特定のスキルの修得を希望する人材の受け入れが想定されているというものである。

■国公私立大学の再編までも視野 ~「一般社団法人大学等連携推進法人(仮称)」~
文部科学省は、さらに地域の複数の国公私立大学が新たに一般社団法人を作り、グループで運営できるようにする制度案を公表した。 新たに設立されるのは文部科学大臣が認定する「一般社団法人大学等連携推進法人(仮称)」である。内容は、グループ内の大学は協力して、複数の大学の学生が1カ所で教育を受けられる共同教育課程を編成したり、施設・設備の相互利用や入試業務などの事務作業を共同で進めたりして、教育・研究における各校の得意分野に資金や人材を集中する、というもの。
大学は、特に近隣同士だけでなく、地域の枠を越えた連携も想定している。将来的には国公私立の枠を越えた大学同士の統合や、大学が破綻した際の学生・教員の受け皿など、大学再編を促す機能も想定の内であるという。
さらに、大学再編をめぐっては、文科省は1つの法人が複数の国立大を経営できるようにする制度改正や、私大同士の統合、学部の譲渡を可能にする仕組みの導入なども検討している。
少子化が進行して、大学は入学人員の減少で破たんする様相を呈しているが、地方の大学がなくなって、町の昼間人口が減少して商店街がゴーストになってしまった、というようなニュースも聞く。また反対に、市区町村が私立大学を誘致して、町が活性化したということも多々聞く。大学の存在は自治体や企業利益にも影響を及ばすのは自明であるから、官民一体となった改革は、想定の範囲内のことではある。
しかし、現段階での反対意見も強くあり、そもそも国立の大学と私立の大学は創設の基軸が違い、校風、観点が異なることにこそ存在意義がある、はずだというものである。が、
現実をみれば、そのような懸念を吹き飛ばすほどに、深刻なのである。私立大学は、全国に6百ほどあるが、そのうちの四割が定員割れしている。アジアからの留学生を受け入れる施策で、学生の減少を食い止めようと必死な大学も多々ある。この新制度は、早ければ二〇二〇年目安に導入されるという。

■行政の大学支援 その例
文部科学省の事業としては、地域の産官学連携を支援する施策として「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」がある。地方の大学群と、地域の自治体・企業等が協働し、地域を担う人材の育成、魅力ある就職先の創出を推進する目的。二〇一五年度に四二件が選定され、それぞれの拠点となる申請校を含め大学は百九十四校が参加している。
 私立大学対象の事業としては、二〇一七年度には私立大学等改革総合支援事業の中にタイプ5「プラットフォーム形成」が設けられた。複数大学間の連携、自治体・産業界等との連携を進めるためのプラットフォームを構築し、地域の課題やビジョンに対応する高等教育の中期計画を共同策定し運用を支援するもの。選定予定件数は、初年度で五~一〇グループだったが二〇一八年度で一〇〇グループまで拡大予定だ。
 さらに二〇一八年度予算で、内閣府が新規事業「地方大学・地域産業創生交付金の創設」で百二十億円を要求している。
各首長のリーダーシップの下で産官学連携コンソーシアムを構築し、地域の中核産業の振興や専門人材育成に取り組むことを支援する。東京二十三区内の大学の定員抑制を提言した「地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議」の議論を反映するものだ。

 例えば対象となる取り組みとして、「産官学コンソーシアムによるバイオ医薬品等の専門人材育成や研究開発」や「理工系の国公私立大学が同一キャンパスに集積して行う介護ロボット等の専門人材育成や共同研究」等がある。コンソーシアムが申請するこうした計画の中から優れたものを有識者の委員会が選定し、五年間をめどに継続的に支援する。

大学の在り方は、人材育成の面からも日本としての最重要課題となる。この一月、京都大学IPS細胞研究所の助教授が論文不正を行ったことが、発覚した。助教は任期のある非正規雇用であったそうだ。不正の背景には、研究資金に困窮する研究機関の存在や、研究者が経済的不安を抱えての研究であることが指摘されている。大学の将来は、日本の官民挙げての重要課題と改めて訴えたい。
(了)

 


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