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教育トレンド

日本の教師の仕事の過酷な実態

■過労死ライン、教師の長い勤務時間
ニュースで、「教師の過労死」といったことが報道されるようになった。東洋経済の近刊の表紙タイトルには「学校が壊れる」とある。耳目をひくこのタイトルはこのところ、教員の残業が過多で過労死寸前であるという調査結果がでて、「学校の先生もそんなに残業をしていたのか」といった社会的関心が広まっているため、教育界にも、一般社会と同様のことがあったのか、といったような話題性があるからだろうと思う。
 教師は単なる労働者ではない、という認識はかなり強くあって、教育熱心な教師というのは、こどもの教育のためならば、これは勤務時間外の仕事だからやらない、等と通常企業での仕事と同じに思っているはずがない、生徒指導の途中に勤務時間が終わったから、と退勤する教師などいるはずがない、と多くの人は思ってきた。が、現状は過労死ラインを越えた残業仕事で疲弊している。
筆者は公立学校での勤務経験があるが、赴任したのは都内の公立学校であったが、病欠の教員の補助であった、明らかに精神疾患での病欠であった。何等かで仕事や指導に行き詰まる教師の数がかなり多いことは、現場の大きな課題であろう。
先月の当紙面でも述べたが、日本の教師の仕事量は週平均五十三.九時間とかなり長い。
授業が教師の本質であるはずだが、現実は満足な準備もできないまま、毎日の授業に臨まなければならないのは教育の質の低下を招きかねない事態である。日本の教師の実態は、どうなっているのだろうか。
■教員養成大学の今後
 よい教育を行うためには、教師質の向上は欠かせない問題である。が、このところの少子化によって、教師の採用状況に暗雲が立ち込めている。
文部科学省の有識者会議は先ごろ、国立大の教員養成大学・学部に対し、定員削減や他大学との機能集約、統合の検討を求める報告書案を示した。
 少子化に伴い、今後、教員の採用数が減ることを踏まえ、二〇二一年度までに結論を出すように各大学に規模縮小を求めた。これは異例のことである。国立の単科大と教育学部のある総合大の計四十四大学。入学定員は約一万一千人で一〇年前から微増しており、卒業生の六割前後が学校教員として就職している。
しかし、教員の採用数は少子化に伴い、今後は減少に転じる。文科省によると、二〇一六年度の公立小中の採用数は約二万三千人だったが二十二年度には約六%減少する見込み。現在は私立大卒業生など含めてほぼ採用数を満たしているが、有識者会議によれば一〇年後には公立小中の教員需要が約一万二千人とほぼ半減するとの予測も示された。
 このような現状を踏まえて報告案では、今後、地域ごとの教員需要に応じて定員を見直すとともに、国公私立大学との間で連携・集約の検討が必要な時期だとしている。
具体的には(1)採用数が少ない教科の学科を集約する(2)複数大学で共同の教育課程を設置(3)県内外の単科大や総合大教育学部を統合する――などの案を提示。各大学に対し、自治体などと協議し地域ごとの将来需要を示した上で、二十一年度末までに一定の結論をまとめることを求める。国は取り組みの進み具合に応じ、財政支援を検討すべきだとしている。
 国立大教育学部や教育大の統合に関しては、強い反発が予想されるもので過去〇一年にも教員養成学部の再編を求める報告書をまとめた際には、自治体間の調整が進まず、鳥取大と島根大の学部統合のみがなされただけだった。
 財務省は予算編成期となると公立小中学校の教員定数の削減を要請してくる。
文部科学省は教員数を増やそうとするが、人権費用を減じようとする。
それはどのくらいの教師定員が、こどもの数からみて適正なのか?が、判然としないという現実があるからだ。同冊子に、慶應義塾大学中室牧子准教授へのインタビュー記事が掲載になっていたのでその発言を引用する。
中室准教授は「こういった問題を考えるときは、社会実験やエビデンス(証拠)を基にして予算配分を決めるのだが、日本にはエビデンスがない。根拠に元づく議論がない」、と述べ、そして
「教員の適正な人数を考える際に、解決を難しくする日本特有の事情が二つある。一つ目は教員が多くの仕事を抱えている点。(中略)二つ目は、格差問題だ。私が受託研究している埼玉県では就学援助率が一番高い学校で五十一%、低い学校で0、三%だ。貧困の割合が高い学校では、いじめや不登校が多いので教員の負担も増す。教員の供給配分を考えれば負担軽減につながるかもしれない」「いずれにしても、子供の数が減るのになぜ仕事が増えるのか、コスト高の教員を増やすのが合理的なのかは検証できるのでやるべきだ」と論じている。
 ちなみに、日本では、クラス規模が大きいから教師一人当たりの子供数が多いので指導がいきわたらない、といった議論もあるので、国際比較をみたが、教員一人当たりの生徒数は一四人で、OECD各国の平均が一三人なので、他国と大差はない。(資料:OECD図表でみる教育二〇一六年版より)。こういったことから数のみではない現状が背景にあるはずだ、と推察する。

 ■今後の教育界は
日本の教師は、①授業の他に、②連絡文書作成等の事務、③生徒の観察、④進路指導等の教育相談、⑤部活動指導、⑥特別業務(教育実習生の指導など)等、広範囲の仕事がある。教育先進国と言われる国々では ①と②以外は学校裁量で決められるので義務ではない国がほとんどである。
複雑化する保護者の家庭環境への対応、増加する授業時間、新規課程への対応と日本の教師の仕事は減ることはない。教師の現場に、労働基準局が改善指導に入ったということも聞いたことがない。
 変化の大きい時代、教育内容の変化も進んでいる。学校は、ITの波にさらされている。小学校でプログラミング学習がはじまるという時代である、小学校教師は通常科目の他にプログラミングの指導もすることとなる、授業準備の時間がさらにのしかかる。教育は大切である、と多くの人は言うが、教師世界は今まで閉じられていて、教師がどのような働き方をしているのかの情報が社会化されていなかったことが、明らかになってきたということなのではないか。先にも述べたが、教員養成大学も大いなる再編の波にさらされている昨今、よりよい教師の育成、管理は、重大な社会問題であると認識したい。(了)
 特定非営利活動法人教育ソリユーション協会 緑川 享子

 


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