学校リストをお探しなら、NPO法人 教育ソリューション協会の[全国学校データ]

NPO法人教育ソリューション協会


教育トレンド

学力の向上と家庭教育のあり方

 昨年12月初旬、国際教育到達度評価学会(IEA、本部オランダ)は、小学4年生と中学2年生対象の国際学力テスト「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS/Trends in International Mathematics and Science Study)」の2007年の結果を公表した。日本は中学2年生の理科で前回調査の6位から3位に上昇、数学は5位で横ばいと言う結果だった。
 小学4年生では算数・理科ともに4位で、いずれも3位だった前回から一歩後退という結果だった。全体の平均が500点になるように統計処理した平均点では小4生の算数が568点、理科が548点、中2生の数学が570点、理科が554点で、前回と同じか2-5点高かった。
前回のTIMSSでは前年より順位が下落し、学力低下論争が激化するきっかけの1つになったのは記憶に新しい。今回の結果に文部科学省は「順位は全科目で5位以内で、国際的には上位にあり、平均点もやや上昇した学力低下には歯止めがかかったと考える」(学力調査室)という見解を発表した。
 しかし、筆者は、継続的下落こそはなかったものの、これをもって全体的に日本の子どもの学力低下に歯止めができた、と楽観はできないと思っている。というのも、第一位、二位との点数差は大きく引き離されているし、各教科の学習意欲の低下が顕著であるからだ。学力向上には学習意欲向上が結局は鍵となるはずだ。

調査によれば、算数・数学と理科の勉強が「楽しい」と答えた子どもは、小4ではそれぞれ7割と9割だが、中2では4割、6割と、国際平均より約20~30ポイントも低い。
 また、理数の学習が「日常生活に役立つ」と思う中2の割合はいずれも最下位レベルで、「希望する大学進学や就職に良い成績が必要」とする回答も少なかった。
学習意欲の低下は、学校教育のみで解決がつく問題ではない。子どもが育つ家庭での環境こそが課題であろう。

■学習意欲と公立小学校の実態
 都内で先進的教育をしている品川区立の一般的な小学校の実態を調べてみた。
同区は、全国的にも先進的政策を数多く実施しており、注目に値する成果もだしている。特徴的なことは、習熟度別指導、少人数指導、教科担任制などを取り入れており、個を大切にした授業実践をしていることである。
同区の小学校で少人数指導を行っている田中千春教諭(50代)に意見を聞いた。
教諭は、1学年から6学年の少人数クラス・算数の指導を実施している。具体的には、1学年には約60名児童が在籍している学校で、2クラスあるため通常では30名定員の2クラスであるが、算数科目の授業時間になると、理解度別に3クラスに編成しなおし、担任と田中教諭の合計3人が各クラスの指導を行うものである。
 事前の準備・確認テストで理解段階を調べるので、分野によって人数は流動的である。
A,B,Cクラスとして、10人、20人、30人のこともあれば、4人、22人、30人ということもあるという。理解が不足している、個別指導がかなり必要という子どもたちには、児童数を少なくして指導がいきわたるようにする。
「この習熟度別クラスでは、いろいろな段階のわけ方により、大人数のクラスでは質問できにくい児童も教師の目が行き届き納得いくまで説明をうけることができ、理解も深まっていきます。教師も指導をし易いのです」と教諭は言う。
学習意欲が低下する大きな原因のひとつが、「授業についていけない、理解ができない」ということにある。同区では、区全体の施策として実施しているので、各家庭の理解を得ていることが成果となっていると思われる。
 田中教諭はよく見聞することだが、と前置きして、「自分の子どもは私立中学への進学を希望しているから、高いレベルのクラスにいれてほしい」とか「どうして、家の子が低いクラスに入っているのですか」など身勝手ともいえる個々の親の意見を超え、学校と家庭が連携のもとに子どもをトータルに育成するという観点が必要だ、と言う。

■学力と学習意欲と家庭教育
 「学ぶことが楽しい」という意欲が強い動機となった学習こそ、前進の基であろう。
100マス計算で現場教育を実戦している広島県尾道市立土堂小学校・陰山 英男校長は、学校においての子どもの学力向上には家庭でのきちんとした生活が原動力という持論を展開する。睡眠をきちんと取る、きちんとした食事ができている児童の学力が高いという分析も著作で公開している。
陰山校長が90年から91年頃、多くの子どもたちを観察し、食事の食材を多く使う家庭の子どもはテストの成績が良いという分析を行い、保護者に指導し、学力的を向上させた実績を持つという。
 子どもの学力を上げるためには、家庭でのごくごく基本的な日常生活に鍵があるということだ。多くの家庭では子どもの教育は母親に任せ父親が教育不在のことが多いと聞くが、これからの社会は、父親も子育て参加、教育参加することが重要になると強く感じる。
 昨年は、日本人としては3人の科学者がノーベル賞を受賞し、理数離れが言われる中で教育に希望が灯った。
 化学賞の下村修氏は「子どもには興味あることをやらせなさい」 (2008/10/9(木)朝日新聞夕刊・引用)という言葉をメッセージにしている。
家庭では基本的なしつけに始まり、子どもの興味・関心の芽を引き出し・見出して、環境的な支援が日常の中で行える。

各家庭の実情に合わせ、まずできることから家庭でしっかりと安心した生活、規則ある健全な生活を保つことが今こそ必要であろう。
言うまでもないが、健康な身体と健全な精神状態を作るのが家庭の役割である。
『誰も教えてくれない教育のホントがよくわかる本』伊藤敏雄著)という著作に、今すぐ家庭でできる教育力向上の7か条という項目があった。紹介してみよう。
 ①早寝早起きをさせる(中学生は11時までには寝る)、②朝食をしっかりとらせる、③テレビやゲームは1日1時間程度まで、④遅刻や忘れ物がないように確認させる、⑤親自身が基本的な生活習慣を守る、⑥授業参観などの学校行事へは積極的に参加する、⑦親子の信頼関係の見直しをする機会をつくる。
当たり前のことの列挙のように思えるが、こういった当然のことを各家庭で、まず実践することが求められるのだ。(了)
☆——-ことば————–☆
◇国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)
 主に授業で習得した知識の定着状況を見る調査。
 95年以降は4年に1回実施。日本は81年調査で中2数学が1位になるなどしたが03年調査は3~6位で、学力低下を巡る議論を呼んだ。 

(2009年 1月 月刊カレント掲載)誌

 経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)は、15歳を対象に3年に1回実施、知識の活用や読解力に主眼を置くことから出題傾向が異なる。 


 


コメントを残す



このページのTOPへ

全国学校データベース