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教育トレンド

経済格差が教育格差につながる 子どもの貧困問題

◆家庭の様子がわかる子どもの衛生状態から

「経済格差」が教育格差へとなってきている現実がある。
「子どもたちの口腔状態、特に歯の虫歯や衛生状態で、家庭の様子が出ているんです」そう語るのは、教師歴三十五年の大庭美奈子教諭である。大庭教諭は、東京郊外の小学校で教鞭をとり、小学生の児童、および家庭の様子を観察してきたが、ここ一〇年ほどで、家庭状況にかなりの変化が起こっていると述べる。子ども自身変化と家庭の在り方の激変ということだ。夫婦とも働き家庭でなかなか連絡が取れない場合に加えて一人親家庭が増え、近年は母子家庭が多い年にはクラスの三割にもなるということが珍しくなくなった、というのである。
大庭教諭の言はつまり、「衛生状態が悪く虫歯ができやすく、栄養状態、衛生状態も不十分なことが多くなっている、また学習でも自宅学習が不十分、忘れ物が多い等、一人親家庭の家庭でこれらの傾向が多い」との実情がある。学習にお金がかけられない子どもは、塾に行っている子どもより成績があがらず、進学もできず、教育的困難にであってしまう。義務教育段階からの格差が、将来的な格差に拡大する、という流れがある。ここにきて「子どもの貧困」という実態が浮き彫りとなった。
 政府は、二〇一三年六月に、与野党全員一致で「子どもの貧困対策を推進する法」を可決し、翌年八月には同法に基づく「子供の貧困対策に関する大綱」を閣議決定した。

◆子どもの貧困を放置すると経済損失は3兆円近くに
 先頃、日本財団が試算し公表したのは「子どもの貧困を放置すれば、経済損失は約二.九兆円に及び、国の財政負担は約一.一兆円増える」という発表である。
同財団は子どもの貧困対策は「慈善事業でなく経済対策として捉え、官民で取り組むべきだ」と指摘した。
 *研究は今年七月~一一月にかけて、同財団と三菱UFJリサーチ&コンサルティング(東京都)が実施したもの。調査は一五歳の子ども約一二〇万人のうち、ひとり親家庭の一五・五万人、生活保護家庭の二・二万人、児童養護施設の〇・二万人計約一八万人が対象。
子ども時代の親の経済格差が、学力や進学率の教育格差を生み、将来の所得に影響すると推定し、現状のままの場合と教育格差を改善した場合を試算したのである。
 現在大学や専門学校などへの進学率は約八〇%に達しているが、貧困世帯層の子どもは三十二%にとどまっている。十八万人の就業状況を推定すると、正社員は約八万人、非正規社員約三.六万人、無職約四.八万人などとなり、現状では六十四歳までに得る所得の合計は約二十二.六兆円となる。
 一方、何らかの対策が行われ、高校の進学率、中退率が一般家庭の子どもと同じになり、大学などへの進学率が五十四%まで上昇したと仮定すると、正社員は九万人に増加し、非正規社員は三.三万人、無職は四.四万人に減少して、合計所得は約二十五.五兆円に増えた。
 所得が増加すれば、国に納める納税額なども増える。税と社会保険料の個人負担額から、医療費や生活保護費などの給付額を差し引いた「純負担額」は、現状では約五.七兆円どまりだが、改善すれば約六.八兆円になるはずだというもの。
  生労働省がまとめているのが「国民生活基礎調査」である。
 均的な所得の半分を下回る世帯で暮らす18歳未満の子供の割合を示すのが「子供の貧困率」で、二〇一二年に一六.三%と過去最悪を更新している。また、前回調査の〇九年から0.六ポイント悪化していた。十二年の全世帯の平均所得は約五百三十七万円で前年比十一万円(二%)減少し、統計開始以降、四番目に少なかった。子供がいる世帯の平均所得が同約三%減ったことが影響した。
 この原因として一つ目がひとり親家庭の増加である。離婚した場合、義務教育段階の子どもは圧倒的に母親が親権をとることが多く、また、父親は扶養料の支払いをするものは約二割という数字もある。貧困の母子世帯が増えており、働く母親の多くが非正規雇用である。基本的生活習慣を身に着ける時期に、家庭に適切な保護者がおらず、また、経済的な困窮に陥った結果、学業への影響、身体的な状況が悪化するという悪循環に陥るのである。
 二つ目には、働く親自体の所得が減少していることにある。つまり企業の業績悪化、労働構造の変化による不安定さが、家計を圧迫しているのである。
 *(この調査は全国の世帯を対象に無作為抽出し、一三年7月に所得についての調査票を配布。二万六千三百八十七票(有効回答率七十三%))。
 *貧困率 低所得者の割合を示す指標。経済協力開発機構(OECD)の基準を用い、収入から税金などを差し引いた全世帯の可処分所得を1人当たりに換算して低い順に並べ、中央の額の半分に満たない人の割合を「相対的貧困率」と定義する。

◆子どもの貧困率改善のために
国立社会保障・人口問題研究所では、日本の子どもの貧困の特徴として、政府による貧困削減効果の少なさを挙げている。再分配前と再分配後で子どもの貧困率がほとんど改善されることがないという。再分配前とは、政府が国民から受け取った税金や社会保険料を、生活保護や児童手当などの社会保障給付として国民に返す前と後という意味だ。
ふつうは再分配後には、その値が改善されて、貧困率が低くなるのだが、日本の子どもの貧困率はほとんど改善されない。国民が収める税金や社会保険料はほとんど高齢者福祉などに消費され、子育て家族にはまわっていないことがわかる。日本の母子家庭の貧困率は約六割にもなるが、先進国でこのような国は日本だけであるという。
厚生労働省の平成二十三年「全国母子世帯調査」によれば、母子家庭の平均就労年収は百八十一万円に過ぎない。これは父子家庭の平均就労年収である三百六十万円の約半分だ。
これらのことからわかるのは、子どもの貧困率というのは、政府の政策や国の制度、社会のあり方を変革していけば、改善できる数字だということである。貧困対策の処方箋は経済成長、市場の活性化しかないというのは偽りであって、その社会が何を大切にするのか、何を優先するのかの価値観に負っているのである。

◆日本初の「子ども貧困センター」の開設
首都大学東京は本年、十一月、同大学内に「子ども・若者貧困研究センター」を設立した。大学に貧困研究を専門とするセンターを設立するのは全国初という。
 センター長には、同大教授で、「子どもの貧困」などの著書がある阿部彩教授(貧困・格差論)で、ほかに教育学や社会福祉学などの専門家一〇人の計十一人で構成する。
これまでの研究は、社会福祉学、経済学、社会学、教育学、医学、心理学、地理学などに散在しており、体系だった貧困研究として確立しないという背景があった。同センターでは、社会福祉学、教育学、社会学、心理学などの研究者とともに子どもが貧困に陥る原因や対策などを様々な角度から研究する。今後は、大学の設置者である東京都と協力して実態調査を行う予定で、研究成果を都にフィードバックして施策に反映させることも目指す、という。

◆子どもの貧困の背景
 供の貧困対策は主に文部科学省、厚生労働省、内閣府が担っている。今年度予算では、文科省が学校へのスクールソーシャルワーカーの配置や、地域の無料学習支援塾を設置する事業などに約五千億円。厚労省が、児童相談所の相談態勢の強化や児童養護施設の学習支援などに約三六〇〇億円。内閣府が、支援情報を集約する事業などに一億二千万円。合計八千七百四十億円が子供の貧困対策に使われている。人材育成の重要性をより進展してほしいものである。
 子もの貧困は種々の子どもを取りまく状況があっての結果である。
筆者は常に、学びたい意欲ある人材が、親の経済格差によって将来もが確定されてのびることができない社会には未来がないと思っている。
「子どもの貧困対策の推進に関する法律」の総論の的には以下のように宣言がある。
「この法律は,子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう,貧困の状況にある子どもが健やかに育成される環境を整備するとともに,教育の機会均等を図るため,子どもの貧困対策に関し,基本理念を定め,国等の責務を明らかにし,及び子どもの貧困対策の基本となる事項を定めることにより,子どもの貧困対策を総合的に推進することを目的とすること」
やっと社会が、行政が教育の根本に気が付いて生きたという感がある。
社会全体が、どういった価値観で動くか、が試されている。
(了)
 特定非営利活動法人教育ソリューション協会  緑川享子

 


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