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教育トレンド

タイの学習塾の実情、その変遷と趨勢

■ 世界に進出日本の企業

世界に進出している日本企業の海外現地法人数は約二万四千社である(東洋経済調べ・第四十一回調査より)この新規での海外進出件数は、二〇〇四年に一〇六五件とピークを迎えその後減少したが、二〇〇九年を底にしてその後は増加に転じた。前年より六百三十九件を上回ると報告されており、この傾向はさらに上方修正される見込みである。

どの国に進出しているかというと中近東を除くアジアが七割を超える。中国本土が五割強を占めていたが、二〇一一年は三分の一に低下して、新興勢力としてタイ(八.0%)、インドやインドネシア(ともに約七%内外)が増加している。

昨年のタイの大洪水被害の際、タイにおける日本企業の進出、経済協力を目の当たりにした。企業の国際化とともに、日本人家庭の海外駐在も増加する。

今回、タイの教育機関を取材し、その実態を探った。

 

■世界でも大規模なバンコクの日本人学校

海外にある日本人学校の中でもバンコク日本人学校は創設から約八〇年以上もの歴史ある世界でも有数の日本人学校として知られる。小、中学校を擁しており、児童・生徒数は、今年度二千七百人を越えている。毎年児童生徒数は増加の一途で、平成一四年には約千七百人規模であったが、ここ一〇年で約千名の増加をしている。

加えて、バンコクから車で一時間半程度のシラチャに、タイで二つ目の日本人学校が三年前に開校していることも考え合わせれば、タイ国に進出している日本企業の増加とともにタイに駐在するこどもたちの増加があることがうかがえる。

中学生であれば、高校受験が控えており、学校外での受験学習をどうするか、また、小学生でも中学受験を望む場合には日本にいるよりも情報が少ないので条件が悪い、タイにいてハンディは多い。

日本企業の進出に伴いバンコクには、かなり多くの学習塾が存在する。日本人の子ども対象の学習塾は、今から、一〇年以上前から出現していたようである。現在は日本人居住区に、そのほとんどが存在している。

その数はおよそ十から一五塾程度、規模は、一〇数名から三百名程度の幅がある。個人として一部屋から始め、現在では百名以上の規模となっている学習塾や、既存の学習塾が統廃合して、現在の姿となっているというのが現状のようである。

通常、小学校上級生四年あたりから入塾し、中学生となると帰国後の進学を考えているために通塾する場合が多いということである。授業料は一カ月あたりで、数千バーツから二万バーツである。(タイの一バーツや約二・八円換算)

受験適齢期である子供を抱える家庭においては、日本にいても学習塾の存在は欠かせないであろうが、海外においても同様で、かえって海外であるからこそ学習塾によせる関心は高いものがある。

以下、バンコク市内にある学習塾をいくつか訪問し、取材を行った。以下概要である。

 

■多数あるバンコクの学習塾

(一)学習空間ノア

中学、高校受験で、進実績を誇る“学習空間ノア”は、日本人地区内のビルの中に教場をもち、毎年、卒塾生は著名学校に進学する実績をもっている。受験希望者が多く集まる特徴の塾で、社会科などでは時事問題を作成して資料にするなど基礎の育成にオリジナル教材などで柔軟対応をしている。日本の漢字検定の海外認定校ともなっている。

取材に答えてくれた安達麻紀講師は、日本の教育の現状についてどう感じているかとの筆者の質問に「教育行政に振り回されているような感じがします」と述べる。代表の安藤理智氏は、学習塾経営の傍ら、趣味であるカメラマンとしての腕もあるという異色の経歴を持つ。安藤代表は「近年日本からきた子供たちの基礎学力の低下が目立っています、家庭でのこどもへの関心が薄くなっているのが学力低下と関係があるかもしれないと感じます」と率直な感想を述べてくれた。

(二)ネクサス明倫館

ネクサス明倫館の松田賢憲代表は日本の学習塾での指導経験を持ち、今から十四年前にバンコクにてマンションの一室から塾を開業し現在では数百名規模の生徒をかかえる。当初、滞在する日本人は約二・五万人であったが今は八万人弱に増加するという児童生徒の急増という流れに乗った。指導としては、日頃の指導から松田代表が感じているのはどうしても日本語環境にないために子どもたちの日本語力が落ちるので 「日本語の強化」ということだ。

また、松田代表が危惧しているのは近年日本から入塾する子どもたちが「全体的に勉強をしなくなっていることだ」という。だから、徹底的に指導をすると簡単に学習効果があがるのだそうだ。バンコクには、他の遊びの誘惑がないためによく勉強する子が多く、やれば伸びる、指導次第だと実感しているところだ。

日本の教育の実態、については「一〇年前の子どもと比べてみると ある程度の演習的な指導分量がないとだめ、反復学習の不足が顕著です」と述べた。また、今後のバンコクの学習塾業界は増加の方向であろうと分析している。

 

(三)TJブリッジ

今年になって、補習専門の塾として開業した。代表の小川一樹さんの前身はバンコク日本人学校の教師という経歴で、保護者からの信頼という点で、特徴的である。受け入れ人数は小学校四年生から六年生、一学年一二名と少数に抑えている。小川代表は、

「個人の進捗状況を確実に把握しながら指導したい」という思いから、大規模化することはしない方針であると述べる。

補習を主にしておりほぼ口コミで紹介されるために、他塾のような広報手段に頼らないという。特に受験指導をしないとのことであるが、「基礎基本を堅実にすることで子どもたちが学ぶことを楽しいと思い、笑顔になることが目標です」と理念を貫く。

従来型の既存学習塾は、受験指導やどの学校に進学したか、ということがキャッチコピーとなっていたことを考えると、学校の補習に力をいれるということでの開塾は、学習塾の今までの発展形態からみると、新機軸傾向としてとらえられるであろう。

(四)学研インターナショナル

バンコクに長年在住し、いくつもの海外学習塾などを成功に導いてきた横市和彦さんは、

日本の大手学習塾を最近まで運営していたが、その塾を後輩に譲り、新規に学研インターナショナルを来年開塾する準備中である。横

市さんによれば、「この一〇年ほどの間、日本から来た子どもたちの学力は低下しています。テストの成績をみて、落ちていると感じます。来年、開塾する予定ですが、日本から指導の講師を呼び寄せ、教場を工事中です。大体、規模的には数百人を予定見込んでいます。それだけの市場はまだあると予測しています」と自信をのぞかせる。

バンコク日本人学校の児童生徒数の中で、学習塾通学する人数の割合は、約六割程度であろうという。現存する塾の抱える人数の総数を考えてもまだ成長、拡大する余力があるであろうと読む。

(五)駿台バンコク

最近、日本から大手予備校の駿台バンコクが開塾した。日本でも大手の駿台の海外アジア校である。大手の強みを生かし、また海外校運営のノウハウを結集して高校受験を主体のカリキュラムを組み、抜群の知名度を生かして展開中である。今年の合格実績も日本の難関大学への合格実績をうたう。教場は満杯状態である。個人個人で区切られたブースで学習ができる環境を整え、日曜日も教室を開放している。

このように、タイ国での企業増加に伴って、駐在員家庭の子女教育のために、タイ国内の学習塾は統廃合を繰り返しつつも、現在のところは拡大傾向をたどっているようだ。

今後の市場予測としては、件数自体の微増があるのではないか、また、それによる淘汰は当然のことで起こり、一方ではより専門性の高い塾の台頭があるのではないか、という声が聞かれた。

今回、近隣アジアのタイでの調査を行ったが、日本企業の海外進出は今後さらに伸びるであろう。それに伴い、日本の子どもたちが海外で受ける教育環境という問題は、日本国内の教育事情とも絡み、今後さらなる変化を予測させるものだ。(了)

(2013年1月号 月刊カレント誌掲載

2012年9月バンコク訪問 取材に応じていただきました各塾の皆様、ありがとうございました)

 

 

 

 

 


 


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