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教育トレンド

国として有用な人材を育成するために

日本インド人会

 会長 シャグモン・チャンドラ二さんインタビュー

急激に進む情報化社会・国際化社会において、英語力とIT技術は避けて通れない教育課題である。
また、近年のインド経済の発展には目を見張るものがある。インドの実質GDP(国内総生産)の成長率は九%近くに達し、高成長を維持している。インド経済は中国と並びアジアのみならず、世界の経済界での活躍は言うまでもない。現に日本への来日者も、二万人を超える勢いである。その多くは、IT関連企業の従事者であり、今後の時代社会の中心となるIT社会のけん引役と目される。中国が「世界の工場」と呼ばれるに対して、インドは「世界のオフィス」といわれる所以である。
著しい経済発展を成し遂げているインドでは英語とIT教育に力を入れている、と聞く。
日本には約二万二千人の来日インド人がいるが、その約一割が江戸川区西葛西地区に住みインド人のコミュニティが発達をしておりインド人会が形成されている。
来日三〇年余のインド人会会長のジャグモハン S. チャンドラニさんに、日本の教育についてインタビューをした。

★インドのIT技術
平成二年、当時首相だった、森喜朗さんのインド訪問を機としてIT技術者のピザ発行が
緩和策が取られ、来日するインド人が急増した。このおかげで、技術者、金融分野の人、証券といった人たちが日本で労働出来るようになった。インドの技術者たちは、英語を武器にアメリカをはじめとして、世界各国に進出を果たしている。アメリカでは、なんと三人に一人がインド人技術者であると聞く。
西葛西に住むインド人の多くは、インド国内企業の勤務者として海外勤務が日本という形で来日して、だいたい三年から五年を日本で過ごす。その間、自分たちの子息の教育について、心をくだく。
義務教育年限の子どもたちであれば、帰国してから、インドの教育課程にすぐになじむよう、インド国と同じ教育レベルでインド式のカリキュラムでヒンディー語や算数を習わなければ困る。なのでインド人の学校が都内に2か所できている。

★インド人の家庭教育
インド人は数学に強い、という定評がある。二桁の掛け算、三ケタの暗算などがよく知られる。チャンドラニさんに義務教育年代に学校で教わる掛け算のことを聞いたら、大変に興味ある話をしてくれた。
「片手がありますね、あなたはこの片手でいくつまで数を数えられますか」と問いかけられた。
筆者は、いつものように一から一〇まで指を折ることだと思い「一〇までです」と返答したところ、チャンドラニさんは、「一五まで数えられます」と言いながら指の親指で小指の節目を数え、一、二、三、と言い、同様に薬指も四、五、六、と続けると五本の指ではたしかに一五まで数えることができるのだった。
「こうやって、一五までできるでしょう、で、小指の頭から順を追っていけば二〇まで可能ですよ」
「それは、学校で教えてもらったのですか」と聞くと、笑顔で、「インドでは子どもはよく買い物とかお手伝いをします。お店に行けば、お店の人がやっている。お釣りは数えなければならないし、必要なことは覚えるものです」
と、教え込まれたというよりも必要ならば身についてくるものなのだ、というのである。
因みに、日本のカリキュラムでは小学校二年生の算数で掛け算を習う。
「家庭教育で、大切なことは一体どのようなことでしょう?」と聞いてみると、筆者の想定を超えた返答がきたのだった。
インドでは、教育を受けることは、自分が豊な人生を生きるために必須なこと。。「教育させたいという願いはインドの家庭の常識です」
「現状、経済的貧富の差が大きいインドでは、国としてベースアップをしなければならない。教育で自分たちがよくなることははっきりとしているから、家の柱となる人に教育を受けさせて、その家を豊かにしたい。がそこで、子ども自身、国の助成を得て学べるということは、大きな社会貢献」とチャンドラニさん。

★教育を受けるとは使命感をもつこと
チャンドラニさんは今から三四年前の一九七八年、来日した。日本は,高度成長期の終焉の頃で、コルカタ(カルカッタ)から貿易のためにやってきた。
名門デリー大学で経済学を学んだチャンドラニさん。
デリー大学の月謝は月に二〇円(当時)だった。
「名門大学に入るというくらいだから親孝行な子どもさんだったのですね」と筆者が問いかけるとチャンドラニさんはこう言った。
「インドでは学校に子どもを通わせるということは、家にとっての働き手が減少することと同義。一六歳の子どもを働き手にするか、学生として国の教育補助をもらうかの選択なのです。成績がよく、進学する子どもには援助が出たからそれで教育を受けられるのです。これは、国の施策として、どこの国にでも当てはまる話でしょう、」とチャンドラニさん。子どもはそのようなお金で教育が受けられることで国に対しての使命感が生まれる。「それが、教育のコツなんですね」と、はっきりと述べた。
続けて、教育で大切なことは、「子どもに仕事をさせること」だとも言い切った。
幼い時から、学んだことを発表する場、見せ場、体験する場、といった環境を与えて、自分が何のために教育を受けているのか感じながら成長するべきだ、という。
親の手伝いもさせずに、知識だけ詰め込みさせて掛け算ができない、といっていることほど馬鹿げていることはない。お手伝いで買い物に行かせれば、掛け算や暗算でお釣りがだせるか、自分の知識が生きた場面で役立つ。お店とのやり取り、そういった実践が教育には必須なのだ、という。
「誰でも学んだことが、どう役立つのか具体的にわからないようなものは、自分のためになることが分からないから必死になれない。人間はそういうものでしょう?自分のアビリティを開花させる場がないとだめなんです」というチャンドラニさん。
若いIT技術者はスキルを伸ばし、仕事をする上で能力を開花することが、すなわち 経済力もつき、生活が向上するのだ、という姿勢がよくわかる。
教育でどんどんと新しい分野に取り組み、スキルを生かしてITの中で生きていこうとしているが、今の日本に肝心の日本にスキルアップする場がないのではなかろうか。社会も経済も教育も疲弊の度合いが高い日本になっていることに警告を鳴らしてくれているようだ。
「文科省の施策などが機能不全に陥っている気がしますが」と問いかけると、チャンドラニさんは首を横に振って
「その上の問題ですね、教育は国がどうあるかってことから考えないと」ときっぱりというのだった。
国が人材を求める時に必要なことは、大きな施策のもと、国が求める人材像をはっきりとさせて教育に取り組まないといけない、ということだ。人口が激減している日本で仕事もなく、将来に夢を持てない日本の若者たち。人材を作ることに国の命運がかかっている、というチャンドラニさんの気迫ある言動に、改めて教育の役割を思うことだった。 (了)

*ジャグモハンS.チャンドラニさん プロフィール
1952年、インド・コルカタ生まれ。デリー大学卒業後、1978年に来日。紅茶の輸入ビジネスジャパンビジネスサービス有限会社(東京都・江戸川区)代表取締役。インドレストランやインド食材の店、紅茶の輸入、販売等の事業活動を行いながら、「インド人会」の会長として在日同胞の支援活動を行っている。

(緑川享子 インタビュー  カレント誌 2012年5月号掲載)


 


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