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教育トレンド

知の拠点である高等教育機関としての大学

「地方創生」を掲げる安倍晋三内閣は、二〇一六年一二月末、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の二〇一六改訂版を閣議決定した。その基本目標の中に「地方への新しいひとの流れをつくる」とした項目があり、政府関係機関の地方移転、企業の地方拠点強化、地方移住の推進などと並んで「地方大学の振興等」を位置付けた。

同戦略によると、現在、地方在住している若い世代の多くが、大学や高等教育機関等への入学のためや、学業を卒業したりするのを契機に、東京を中心とした首都圏へと流出してしまっている。その要因は、地方に魅力ある雇用が少ないことや、高等教育機関等の環境条件が不十分でニーズに応えることができていないといったことが大きな理由となっている。
それを踏まえ、地域に開かれた学校づくり、奨学金の活用、地域を理解し愛着を深める教育の推進、東京・首都圏地域での大学の新増設を抑制して、公的な大学の地方移転を促進するなどの「緊急かつ抜本的な対策」の方向性を、二〇一七年夏を目途に取りまとめるというものである。

つまり自県内の大学進学者の割合を、二〇一六年度の三十二%から、三十六%にまで高めるとともに、新規学卒者の県内就職の割合を二〇一五年度の六十六%から八〇%にまで引き上げることを目標にするという。

■大学にかかる費用と奨学金
地方から首都圏の大学に進学する際の各家庭の教育費用の負担については、家庭の経済格差がかなり顕著になる。
私立の場合では、文系と理系でも差が出るが、経済負担はやはり、文理での差よりも自宅通学ができるかできないかで、一・五倍ほどの差となって負担が増す。(表を参照のこと)
こういった中、耳目をひいたのが、東京大学の発表である。“本学教養学部前期課程に入学する自宅からの通学が困難な女子学生のために、平成二十九年四月から、キャンパスに近く、セキュリティ・耐震性が高く、保護者が宿泊可能な安心安全なマンション等の住まいを100室程度用意します」(東京大学―公式ホームページより文言引用)
東大が女子学生を対象として家賃補助制度を導入したのである。一人暮らしの女子学生向けに、月額三万円の家賃補助を最長二年行うという。キャンパスは主に二年生までが在籍する駒場キャンパスの周辺で、安全性や高いマンション約百室を用意した。対象は自宅から駒場キャンパスまでの通学時間が九〇分を超える女子学生である。保護者の所得制限もつけないという。

女子学生が地方より進学する際の障害の一つに、住居の問題がある、そこに補助という制度を打ち出した。これにつき「性差別である」といった批判も一部見聞した、がそれは近視眼的な観点に過ぎるのではないか、と筆者は思う。そもそも、それ以前に、性別を問わず、家庭の経済状態で、学びの機会を奪われている多くの子ども達がいることを論じるべきであるし、現状を鑑みて、地方自治体レベルで補助制度を打ち出すところも増加しているのである。

■奨学金の現在
現在、日本学生支援機構(旧日本育英会)による大学などの無利子奨学金に「地方創生枠」(各県で百人)が設けられ、各県に設立された基金により、返還額の一部または全部を肩代わりする制度が創設されている。また、二〇一六年度から段階的に、定員を超過して学生を入学させた国立大学や私立大学に、運営費交付金や経常費補助金でペナルティーを課すことになったが、これも東京など大都市圏の大学を主なターゲットとしている。
もちろん、地方に大学があることの重要性は、言うまでもないが、地元企業や団体、自治体との日常的な連携・協業により、地方活性化が図れる効果があるからで、地方経済が厳しさを増す中、地方在住の家庭でも、地元大学に通学できることは大きい。
現在、世界的にみても急速なグローバル化が進展し、高等教育は激しい競争環境の下で学生や教員の流動性が高まっている。また、発展途上国、先進国の別なく各国はこぞって国の成長戦略として高等教育への投資に力を入れており、特に中国、韓国や東南アジア諸国においては伸びが著しく、教育研究環境において日本に迫り、凌駕しようとする趨勢である。世界大学ランキングを手掛ける英教育専門誌、タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)では、「急速な経済発展に伴い、アジアの大学教育と研究規模は驚異的に成長した。日本の大学は長年アジアのリーダーだったが、その地位は脅威にさらされ、深刻な兆候を見せ始めている、と警告する。」(日経産業新聞二〇一四年六月二日引用)
この「深刻な兆候」とは、何か。それは日本の大学は世界の有力大学と提携する国際化に消極的でグローバル人材を育てる機会を失い、重要な研究について海外との協調にうすい、ということである。

大学は基本的に知の拠点ではあるが、地域の経済効果、産業発展、地元だけでなく遠方の自治体との連携協定を結ぶことによる相乗効果と計り知れない波及効果が認められる存在である。

例えば、近々では岩手大学大学院連合農学研究科で、岩手大学、帯広畜産大学、弘前大学、山形大学による連合研究科を設けている。また東京農工大では、宇都宮大学、茨城大学、とともに連合研究科での取り組みを行っている。連合研究によって、若者の目が地元を基盤にして自分の県外の地方にも向いていくことが、ひいては広い視野をもつこととなる。地方創成とは、自分の県のみに目を向けることではなく自分の県を基盤に、日本の全国にも目を向け、ひいては日本国外にも学びが生かす力がある有用な人材を育成することである。高等教育の充実、てこ入れは、将来への確実な投資として、急務であることには間違いがない。 (了)

※「まち・ひと・しごと創生総合戦略2016 改訂版」の閣議決定について
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/info/#an10
※奨学金を活用した大学生等の地方定着の促進について(通知)
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1357396.htm

 


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