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教育トレンド

未来の教育のために基礎研究継続と充実を~ノーベル章受章で考えること~

■本年も日本人科学者が医学生理学賞
本年のノーベル今年のノーベル医学生理学賞は、生物学で東京工業大学の大隅良典栄誉教授(七十一歳)に決まった。これで日本のノーベル賞受賞は二十五人目となった。二〇一四年は物理学賞を日本人三人が独占し、続く二〇一五年には生理学・医学賞と物理学賞のダブル受賞そして今年と、日本の科学技術界は三年連続の受賞という偉業を成し遂げた。
これらの偉業に対して、文科省は「ノーベル賞受賞を生み出した拝見~これからも我が国からノーベル賞受賞者を輩出するために~」という特集を組んでネットで公開している。
過去の我が国の受賞者がどのようにして受賞につながる研究にいたったか、成果を生み出した背景等を考察して、今後の日本の科学技術イノベーション政策に向けての示唆を得ることが目的であるという。
 ■受賞につながった鍵とは
輝かしい業績につながる教育がどのようにしてなされてきたのか、興味深いものである。
一)大村智・北里大学特別栄誉教授の場合
 大村氏の研究を成功に導いた数々の要因の中で最も特徴的なものとして、研究のチームワークと「大村方式」が挙げられる。大村氏が取り組んでいた研究は、地道で細かい作業に支えられている。そこで抗生物質を産出している微生物を分離する人、抗生物質の構造決定をする人といったように、研究員がそれぞれ役割を分担してチームで進めていくことが必要であった。教授は、チームワークを円滑にするために、リーダーとして共同体制で研究をうまく進めていく研究室の文化の醸成に注力した。具体的には、絶えず研究室員の仕事ぶりを観察し、その状況に応じて助言した。土壌から有用な物質を産出する微生物を見つけ出すということは根気のいる研究だが、皆が一丸となって取り組む雰囲気が研究者たちに醸成されたという。
 また、教授は、博士号を取ることを当初考えていなかった研究室員に対しても、研究テーマを与え、やり方は自由に任せ、失敗を恐れずチャレンジさせ、結果、実際に博士号を取った室員が複数輩出された。
二)梶田隆章・東京大学宇宙線研究所長の場合
ニュートリノに質量があったことを発見した梶田隆章・東京大学宇宙線研究所長。
物理学分野の大型プロジェクトは近年の厳しい財政状況の下で円滑に推進していけるかどうか、費用面で困難がある。このため、スーパーカミオカンデを擁する東京大学宇宙線研究所では研究者コミュニティはもとより、社会や国民の幅広い支持を得ていくことを目的に、地元自治体と協力した実験施設見学が可能なイベントの開催、道の駅「宙(スカイ)ドーム神岡」や日本科学未来館等の現地施設以外での一般向け展示等の取組を実施。また、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校の中高生への見学・講義を実施するとともに、「5分でわかる!ニュートリノのひみつ」等の子供でも分かりやすいパンフレットを作成し、研究成果の分かりやすい発信を積極的に行っている。高エネルギー加速器研究機構(KEK)では「カソクキッズ」という連載科学漫画を作成したり、定期的に施設を開放したり、アウトリーチ活動に熱心に取り組んでいる

■国立大学でも財政難
しかし、このような快挙の足元では、日本の国立大学で財政困難のために教員の補充がままならないという事態が発生している。国から支給される「運営交付金」が減額されて教授の補充ができない大学が増加しているという問題である。
 日本には国立大学が八十六あるが、このうちの三十三大学が定年退職した教員の後任補充を凍結する人件費抑制策が取られていたことがわかった。報道によれば、北海道大学では「運営費交付金」の減額などによる財政悪化を理由に、来年度から二〇二一年度までに教授二百五人分に相当する人件費を削減の必要に迫られた。また、新潟大学でも今年度から約二年間、教員人事を凍結する方針を打ち出し、ゼミがなくなるなどの影響が出ているという。これは国立大学協会(会長・里見進東北大学長)が、昨年、国立大学を対象に行った調査の結果である。
教員が退職した場合、後任補充人事が必要であるが、人員を凍結することの理由としては、国からの運営費交付金が年々減少し、大学の規模に関わらず、常勤雇用の教員が補充できていない。研究資金として期間限定の人材を採ることはできても、定年までの人件費を見込むとなると厳しいため、というのである。
 新潟大学は人件費抑制のため、ここ二年間、教員人事を原則凍結する方針を打ち出している。定年退職や年度途中で転出する教員が出ても新規募集を行わず、内部昇任も控えることで人件費を抑えようとしている。さらに今年一月からは、五〇歳以上を対象とする教職員の早期退職募集制度も始め、人件費の抑制策を進めているというのである。

■運営費交付金は一二年間で一四七〇億円減少
多くの大学が財政難になった理由にしている運営費交付金とはどのようなものか。運営費交付金とは、国が人件費・物件費など大学の基盤となる経費として渡す交付金。国が各大学から提出される次年度の収入と支出の見積もりを積み上げて、収入の不足分を予算として計上する。運営費交付金は国立大学の収入の三~四割を占めている。国立大学は運営費交付金のほか、授業料や病院収入等を合わせて運営している。
二〇〇四年に国立大学が法人化されて以降、運営費交付金はほぼ毎年度減額されている。二〇〇四年度には一兆二千四百十五億円(全大学合計)だったが、今年度は一兆九百四十五億円で段階的に千四百七十億円、約一二%減った。
今年度からは交付金を大学の取り組みごとに差をつけることも始めた。大学を目的別に三分類し、取り組み内容に応じて交付金の一部を再配分する。これにより運営費交付金がさらに減るところも出てきている。

■即効性を求める現状
 大隅教授は、「すぐに役に立つ研究」ばかり求められる昨今の日本の風潮を危惧し、「『人類の知的財産が増すことは、人類の未来の可能性を増す』と言う認識が広がることが大切」と訴えている。
元基礎生物学研究所長・元岡崎国立共同研究機構長の毛利秀雄さんが、大学共同利用機関法人自然科学研究機構に寄稿した文章から引用する。毛利さんが東京大学助教授時代に、教養学部の基礎科学第二期生として入ったのが大隅教授だったという。
「大隅君はインタビューで、基礎研究の重要性を訴え、現状を憂い、そして一億に近い賞金をあげて若手を育てるために役立てたいとコメントしています。それに対してマスコミや首相は応用面のことにしか触れず、文科相は競争的資金の増額というような見当はずれの弁、科学技術担当相に至っては社会に役立つかどうかわからないものにまで金を出す余裕はないという始末です。なげかわしい。これでは科学・技術立国など成り立つはずがありません」
 人を育てることは即効性がない。教育の成果はすぐには見えない、その当然のことを
社会が理解することが肝要なのではないか。今回の快挙は続く世代への大きな糧をなるであろう。(了)
(2016年受賞の報を聞いて)

 


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