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教育トレンド

多忙でゆとりのない日本の教師  追いつめられてしまうケースも

■現場では   
 今年の二月末日に一〇年前の女性教師の自殺につき、「公務災害認定」という裁判の判決がでた。
地方公務員の労災認定機関「地方公務員災害補償基金」が「教師の自殺は業務と関連がない」と認定しなかったことで両親が起こした裁判だった。この概要は判決と新聞発表等によると以下のようである。
経緯は以下のようである。
 女性教師は平成一八年四月に、新卒で市立小の二年生担任として着任したが、四月~五月の間に児童の万引き事件が起こったり、指導につき保護者から怒鳴られたり、上司からの叱責があったりということが重なり、七月に鬱病を発症し、同年の一〇月に自殺を図って意識不明となり、一二月に死亡した、というものである。
 これに対して両親は公務災害の認定を求めたところ、基金は「どの学級でも起きうるトラブルであり、自殺は公務災害ではない」と認定しない処分をしたため、両親が平成二十五年に処分取り消しを求めて提訴していた。
 
◆追いつめられる教師たち
 二〇一三年度に鬱病などの精神疾患で休職した公立学校の教員は五千七十八人と、前年より百十八人増えていた。(公立小中高校や特別支援学校などの教員約九十二万人を対象に、休職者や処分者について調査)
 概要は病気が理由の休職者は八千四百八人。このうち、精神疾患による休職者は約六割。
 精神疾患が理由による休職者を学校種別でみると、前年より増えたのは小中と特別支援学校で、小学校二千二百七十五人、中学校千五百四十四人、特別支援学校五百五十人。このうち約二割は、退職に追い込まれている。
自殺したこの事件に類似している事案は、筆者が教師として過去に勤務した公立小学校でも存在していた。

◆小学校六年の担任五〇代の女性教諭
 筆者が産休教師の代行で勤務したのは都内でも教育改革で実績のあるS区だった。地域は、昔からの商店街で保護者達も協力的ということだった。筆者が赴任した時、すでに女性教師Kさんは学級の荒廃と保護者の対応に苦戦していた。
学級は六年生男女で四〇人規模。男子児童の中に特に先導的な子どもが五人ほどいた。その一人E男は、教諭の指導は全く無視し授業中も授業と関係のない勝手な本を読んだり、ふらりと教室からでいていったりする態度で教師を馬鹿にしていた。時々、「先生、そこんとこ違っているよ」などの口をはさみ、授業をかく乱した。(違ってはいなくても乱すことが主なので言いたい放題だった)。あとの四人は、授業中に教師に反抗的な態度を繰り返して、授業を乱した。K教師は当初は、そういった言動を叱責していたようだが、学級は秩序を欠くようになり授業中に集団で遊び始めたり、他の児童も「先生の授業はわかんない」などで混乱していった。
算数科目では理解度別指導をしていたので、算数の時間には二クラスの児童を三段階によくわかる子、中程度の子、基礎からの子、と別の教室で補助教員とともに指導した、筆者は基礎クラスの児童一〇人の指導をしていた。三階にある六年生学級から階段を下りて一階の空き教室に子どもたちは移動することになっていた。
 時々、副校長や校長も見回りで指導を見てくれたが、ある日、授業時間が開始となっても誰も教室に来なかった。不信に思い、六年生の教室に行くと、担任のK教諭と子どもたちが床に座ってがやがやと何かやっている。「先生、◎◎君たちが来ないのですが」と聞くと「休み時間に出てゆきました」
結果わかったことは、来るべき子どもたちは、屋上で遊び、一部はトイレに隠れており、床に座っていたのはK教諭が子どもたちから「指導が良くない」、と文句がでたので話合いをしていた、ということであった。
子どもの不在には他の教師も動員してさがし、屋上に潜んでいるのを引きずり出し、トイレから連れ出して教室に戻し、と時間を使い授業時間はほぼなくなっていた。
そのようなことが度重なると他の子どもの保護者からも「クラス運営ができないのではないか」「うちの子の学力が低下するのではないか」等苦情がくるようになった。
 一部の児童の攻撃からであったがクラス全体が荒廃し、通常指導が困難になった。同学年の教師も手を差し伸べたが、どの教師も多忙で他の学級でも一歩間違えば同じような状態になることは目にみえていた。K教諭の北区は終電というようなことが頻繁になっていた。しかし、裏では、時間がたてば卒業するこどもたちだから、とにかく怪我や問題を起こさないで過ぎてくだけ、ということが言われていた。事なかれで運営されていた。
 代替教師であった筆者にも、現場の苦悩が痛いほど伝わった。学校が、その機能を全うするには困難な時代となったことを痛感する。

◆多忙すぎる教師
 筆者はその後、他の区の代行教師としても仕事をしたが、都内公立小学校とはいえども、教師の質、子どもの質、地域の質でまったく異なる学校の様相を呈していることに気が付かされた。公立とひとくくりにはできない要素があるのである。
 まず、家庭の質がここ二〇年でまったく異質となった。家庭で躾けができなくなったため集団生活での規律を守れない子どもが多いが「子どもを叱る」ことは教師にはリスクとなった。保護者のクレームにつながるからである。また、個人情報の保護の観点から、という理由で家庭状況がよくわからないようになった。子どもの身上調査書には、以前あった項目である保護者の学歴や家庭状況の詳細はなくなっている。
問題のある児童の対応でも保護者とともに解決する、という姿勢とか状況にまで持っていくことができないほど保護者は教師への信頼に薄く、教師も多忙で時間に追われている。
 学校での授業の質の向上が要であるが、教師は事務、行事、問題行動、イベントで日々を過ごすことだけで精一杯なのが実情である。筆者の知人教師も過度の労働で自己の健康を害して大病を患い、退職、休職、に追い込まれた教師が多い。

◆国際的にみても多忙な日本の教師 一週約五十四時間勤務
経済協力開発機構(OECD)は、加盟国と世界三十四の国と地域の中学校にあたる学校の教員に勤務や指導環境を調査した結果を公表した。(*)日本の教員の仕事時間は1週約54時間で、参加国平均の約三十八時間を大幅に上回った。その一方で、指導としての自信があるかどうかでも参加国・地域の中で最も低いことが分かっている。
*(二〇一三年調べであるが国際調査「国際教員指導環境調査」(TALIS)の結果で、調査は二〇〇八年以来二回目となる。日本では、全国から抽出した国公私立中学校百九十二校の教員三千四百八十四人と校長から回答を得たもの)。
調査結果概要を述べる。
一週間の勤務時間は加盟国平均の三十八時間に対し、日本は五十三.九時間で最長だった。部活など課外活動指導約八時間(平均約二時間)、事務作業約五.五時間(同2.9時間)など、授業以外に費やす時間が飛び抜けて高かった。授業の時間は一七.七時間で平均の一九.三時間より短かった。
 学級運営や教科指導といった[指導力]に対する自己評価はかなり低くて「学級の秩序を乱す行為を抑えられるか」の問いには、約五二%の教師ができると答えたが、線加国平均では八七%であるからかなり少ない。教師自身が自己評価が低いのは、社会の意識とも関連があるかと推察する。
 近年の傾向であるが、「教師を尊敬する」ということが薄く、保護者自体が教師に敬語をつかうこともできなくなってきている。
人材を育成し、指導する立場の教師自身が自己肯定感が薄いという中で、子どもたちに理想的な教育が行われるのかどうか、きわめて由々しい事態であることがわかる。
 少し前に教師人員削減のことが、予算削減の面で財務省からの意見であったが、現場は混乱と荒廃が多発している事態であることを理解してほしいものである。
教師が事務処理に追われて、本来の授業、学習指導という仕事を全うできないばかりか、精神を病んで退職していくなどが公立学校で多発している。補助教師が、テスト添削や遅れ気味の子どもの対応、理科や家庭科といった事前準備のかかる教科の補助、などを担うなどの施策が望まれるのである。
加えて、今後は英語が小学校に導入となれば、従来ない科目の指導というのは本来以上の事前準備に教師は追われることとなる。初期の英語専任教員や英語ネイティブの積極登用などが近々の課題でもある。その基盤は教育予算の積極配分ということとなろう。
 短期間に成果が見えないのが教育の常であるが、この投資は将来の日本の礎となってくるはずである。
教師を支えるためにも、教師の待遇面強化、加配教師の増員、専任教員の増加、研修の機会の増大、
スクールカウンセラーや、語学教員の配分等々を厚くする施策を切に願うものである。
(了)


 


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