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教育トレンド

経団連の希求する人材・基礎教育で基礎体力を

教育立国とは何か?

日本人のノーベル賞受賞で考える

二〇一五年一〇月初旬、スェーデン・アカデミーは本年度のノーベル賞受賞者を発表し、北里大学特別栄誉教授の大村智さんがノーベル医学・生理学賞、東京大学宇宙線研究所所長の梶田隆章さんが物理学賞を受賞したと発表した。今回は昨年の青色ダイオード関連の受賞に続く快挙となった。

日本の研究者が受賞することは、今後に続く教育現場にかならず影響し、教育立国としての礎となるものと思う。長年の研究への栄誉ある受賞は大変に喜ばしいのだが、このような反面、現在の日本の大学・高等機関を取り巻く現状は、思いのほかに厳しく、人材と経済的困難に向かっていることも事実である。

国立大の運営費交付金は、法人化後の一〇年で約千三百億円削減されてきており、若手研究者のポストは終身雇用ではない任期付きが増加傾向になり、先進的主要国が研究者数を伸ばす中で、日本は若手が参入せず、横ばいとなっているのである。特に、少子化をはじめとする要因で地方の大学は入学者数の減少傾向に歯止めがかからず、この事態は深刻だ。地方大学ではことに、私立大学にいたっては運営の危機に陥っているところも多い。経営危機を乗り切るため、アジアを主とする海外よりの留学生を積極的に受け入れている大学もある。

そのような中、国立大学法人の第三期中期目標・中期計画に関し、今年の六月、国立大学法人に対する文部科学大臣通知が「教員養成系学部・大学院や人文社会科学系学部・大学院について「組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努める」としている。

これを巡って、様々な議論が起こることとなってしまった。文部科学省は、種々の大学改革案を発表している中で、全国八十六校の国立大学を大学の「使命・役割」に応じて、三タイプに分類したと発表。また、多くの学部の新設・改組などを要望している。

画一的な国立大学を改革し、それぞれの特色に応じた教育研究を進めるため、三タイプに機能分化させる方針であることは、平成二十八年度概算要求から見ても、国立大学への運営交付金の中に「機能強化の重点支援」(四〇四億円)として八十六校ある国立大学を機能分化させるための予算枠を計上していることからもわかる

注目されるのは、既に全部の国立大学のタイプ分けがあり、以下のように分類している。

(1)「卓越した教育研究」タイプ

北海道・東北・筑波・千葉・東京・東京農工・東京工業・一橋・金沢・名古屋・京都・大阪・神戸・岡山・広島・九州(以上・十六大学)

(2)「専門分野の優れた教育研究」タイプ

筑波技術・東京医科歯科・東京外国語・東京学芸・東京芸術・東京海洋・お茶の水女子・電気通信・奈良女子・九州工業・鹿屋体育・政策研究大学院・総合研究大学院・北陸先端科学技術大学院・奈良先端科学技術大学院(以上、十五大学)

(3)「地域貢献」タイプ

上記(1)(2)以外の五十五大学である。

東大など旧帝国大学系をはじめとして、筑波大や東工大などの主要十六校が「卓越タイプ」、東京芸大など、専門分野で強みを持つ大学や大学院大学の十五校が「専門分野タイプ」では、ほとんどの国立大学が地域の人材育成や振興などに協力する「地域貢献タイプ」となっている。

この分類は、来年度の各大学の新設学部発表にもあらわれており、宇都宮大学では「地域デザイン科学部」、福井大学では「国際地域学部」、佐賀大学では「芸術地域デザイン学部」、宮崎大学では「地域資源創成学部」といったように、機能分化に対応した学部の新設などにも現出している。地域の中での国立大学の位置づけが明白になってきているというものである。

一方、文科省では、国立大学の教育養成系と人文社会科学系の学部などを社会的要請に合わせて再編するよう求めたのである。

これを受けて平成二十八年度は、弘前大学や高知大学で人文学部を「人文社会科学部」といった組織に改組するなど、こういった社会的ニーズに対応する動きが顕著である。教員養成系でも、教員免許取得を目指していない課程を募集停止にしたり、教育学の大学院専攻科を廃止して教職大学院へと衣替えしたりする大学もでてきた。

国立大学の機能分化が平成二十八年度から始まれば、それ以降は各国立大学の学部・学科の再編が加速するはずである。

 

◆経団連の希求する人材とは

こういった動きに経団連が警告を発した。

日本経済団体連合会が人文社会科学系学部の重要性を強調する声明を発表したのである。

つまり、人文社会科学系学部などの廃止や見直しを、文科省が国立大学に通知した背景には、大学における理工系人材育成の重視や、企業の即戦力となる人材育成の重視など、産業界の要望に応えるねらいがある、と大学関係者などの間では指摘があるが、これに対して経団連は以下のように声明発表した。

「通知は即戦力を有する人材を求める産業界の意向を受けたものであるとの見方がある」としたうえで、「産業界の求める人材像は、その対極にある」と論じた。

グローバル化した世界で、日本が生き残るために産業界が求めている人材は「即戦力」ではないと述べ、大学関係者らの批判に、真っ向から反論した。さらに、「地球的規模の課題を分野横断型の発想で解決できる人材」を育てるためには、理工系だけでなく人文社会科学系の分野も重要であるというものである。

では、産業界ではどのような人材を求めているのであろうか。経団連は声明の中で、

(1) 初等中等教育段階で、基本的体力、公徳心、幅広い教養、課題発見・解決能力、外国語によるコミュニケーション能力、自分の考えや意見を論理的に発信する力などを身に付ける 。

(2) 大学では、それぞれが志す専門分野の知識を修得する

(3) 留学などさまざまな体験を通じて、文化や社会の多様性を理解する

などが重要であると提言している。

文科省通知が「人文社会科学系学問の軽視」と受け取られ、大学内外からの予想以上に強い反発が、産業界批判の形となって表れつつあることへの懸念が、経団連声明の背景に見られる。

加えて経団連自体は、「産業界が求める人材育成に向けた教育改革」を否定ということはなく、かえって、そのために“学長のリーダーシップによる大学改革の実現、産学連携による人材育成”等を強く求めているのである。

◆世界的な動きと教育

そもそも考えるべきは、世界レベルの中でしか生き得ない時代に、どういった教育が日本の、 再生これからを支える人材となるのか、そこが問題の基礎である。

「教育立国・科学技術立国」と言っている割には  国家の教育予算は低く、

家庭の教育負担が増す中、今後の日本社会へ向けての教育施策のあり方が今最も考えるべきである。

ノーベル賞級の基礎研究を継続できる程度の予算を、これからの人材育成にかけていくような施策はできないものか。ノーベル賞受賞者の一覧表(*)を見てみよう。日本は世界の一〇位以内には入ってはいる。世界のレベルからみて、健闘しているほうだと評価できるのではあるが、現状の日本の教育の在り方如何によっては、アジア勢に追い抜かれるような危機感も内包する。また、教育施策が奏功すれば、より望めるのではないか、といった期待も持てる。教育立国の名に恥じない教育の実行を、さらに望みたい。

(了)  (2015年10月記)

 

 


 


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