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教育トレンド

不登校112,000人超の学校現場~川崎市中1生事件の背景

■不登校の原因

川崎市の多摩川河川敷で中学一年生の男子生徒が遺体で見つかった殺人・死体遺棄事件が連日の報道で人々の関心事となっている。筆者は、被害者が不登校状態の中学生だったこと、母子家庭であったこと、加害者自身も未成年であったこと、という事情に家庭教育の問題、学校教育の問題、地域での子ども育成の教育課題といった教育として解決しなければならない課題が凝縮されていると強く感じた。この事件は現在、論議されるべき大きな教育的課題を浮き彫りにさせているものだ。

報道によれば、「被害者は五人きょうだいの二番目。島根県・隠岐(おき)諸島にある西ノ島(西ノ島町)の小学三年進級時に両親が離婚。以降は母親ときょうだいと一緒に暮らし、小六の夏に川崎の母親の実家近くに越してきていた」(毎日新聞より)ということである。

一人親家庭、それも母親が五人の子供を抱えての経済状況にあり、さらに転入して本人も心身状態が不安的な思春期、不登校状態の時期に起きた事件となると、子どもにとって最悪な事態がいくつも重なっていたこととなる。

文科省が調査した不登校の原因分析では小学生、中学生の不登校の原因・きっかけを、一)学校の問題、二)家庭の問題、三)本人の問題と三つの視点からわけ分析している。

つまり学校の問題とは、いじめ、友人関係、教師との関係、学業不振、クラブなどの不適応があるか、学校規則の問題、転入・編入・進級時の不適応があるか、である。中でも、友人関係と学業不振が小中学校ともに多い。家庭生活に起因する問題とは、家庭生活の急激な変化、親子関係、家庭内不和である。本人の問題とは、病気による欠席等が主となっている。

中でも、家庭生活の急激な変化とは、両親の離婚や死別、転居等子どもの心身に大きなストレスを与える出来事をいう。中でも離婚は近年の社会情勢から増加傾向にあるもので、日本が欧米の家族形態を追いかけているという社会的課題が背景にある。

■不登校の定義とは

「不登校児童生徒とは何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、

登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために、年間三十日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」(文部科学省)となっている。

この定義のもとに調査された不登校児童生徒の数は平成二十五年度の調査において小中学生は十一万二千六百十七人。このうち小学生は二万四千百七十五人、中学生が九万五千四百四十二人。男女比はほぼ同数である。小学生では小学校六年生に最も多く、小学生の不登校児童全体の約三割を占め、中学生は中学三年生に最も多く、中学生の不登校生徒全体の約四割となっている。では、不登校児童生徒の割合はどうだろう。

小学生で二百七十八人に一人※前年度:0.三%、小学校の児童数は約六百六十七万人、

中学生で三十七人に一人※前年度:二・五六%、中学の生徒数は約三百五十五万人。全体で八十五人に一人※前年度:一・〇九% 、校生の不登校生徒は五万五千六百五十七人となっており、割合としては六十人に1人、※前年度:一・七二%となっている。高校の生徒数は約三百三十二万人である。【参考】平成二十五年度文部科学省調査。

■学校の対策はどうか

長野県での児童生徒の不登校の状況は、従来から全国上位の状況が続き平成 二十年度の学校基本調査時点で、小学校で全国最高位、中学校でも全国五 位の高比率となっていた。この状態を重く見た同県教育委員会は重大かつ深刻な状況と受け止め対策をとった。

まず、県内に「不登校児童生徒地域支援チーム」を四 教育事務所一事務所に設置し、取り組んだ。

「不登校未然防止のための学校づくりの取組」として指導や学習形態の工夫で学習を定着させるという教授面、居場所つくり絆つくりという環境面、道徳教育や特別活動の充実という学習面での質の向上をめざした。次は「不登校の早期発見・早期対応の取組」として

・「児童生徒のサインや変化を見逃さない」という教職員の意識、

・日常的な行動観察や欠席状況把握による、児童生徒への適時適切な対応、

・相談員、特別支援教育コーディネーター等による教育相談体制の充実

・「いじめアンケート」等を活用した、児童生徒のサインを把握する取組、

・コーディネーター配置など校内体制の整備、個別の教育的支援を必要とする児童生徒に対する中長期的な指導計画の作成 、

・中学校 三十 人規模学級編制、支援加配教員配置、小中人事交流等による基盤整備

・中一ギャップ緩和を目的とした「中学校区ごとの小中連携」・支援のための児童生徒情報の円滑な接続・児童生徒・教職員の相互交流など心理的距離の縮小による学校不適応の減尐・小中九年間を見通し、地域で子どもを育てるという教職員の意識の醸成等々のほか、家庭との連携を深める取り組みを継続している。

その結果、ここ三年間で不登校の減少がみられるというものである。

■家庭の問題

近年の離婚率の増加は、保護が必要な時期の子供の心身にとっては、大きな影響を及ぼす。それのみではなく、おおよそ子どもが義務教育年代の場合には母親が親権をとることが多いため、母子家庭になる確率が多いということとなる。

初等中等教育年代は子どもがどう育つのか人生の基礎ができる時期である。家庭は子どもの育つ環境の第一の場である。一定の生活水準の保てない状態では健全な心身の子どもは育たない。それは被害者生徒も加害者生徒も同様である。

内閣府「子ども・若者白書」によると、国は平成二十五年から施行された「母子家庭の母及び父子家庭の父の就業の支援に関する特別措置法」により、母子家庭の母と父子家庭の父の就業支援に関する施策の充実や民間事業者に対する協力の要請を行っている

子どもの貧困対策法と同時に審議されている「生活困窮者自立支援法案」では、「都道府県等は、生活困窮者自立相談支援事業及び生活困窮者住居確保給付金の支給のほか、次に掲げる事業を行うことができる」とし、その項目の一つとして生活困窮者である子どもに対し学習の援助を行う事業を掲げているが、廃案となり、その後の国会で成立した。現在各地で事業が実施されている。

二〇一三年に日本で行われた調査では、国内の自治体のうち、子ども・若者の貧困対策で一元的な管理部署があるところは二・四%に過ぎず、特化した計画を策定しているところは〇%である。何らかの問題意識を持つ自治体は約五割で、積極的に取り組みたいという自治体は二割程度となっている。東京都足立区の、「子どもの貧困対策」活動では全庁的体制で取り組んでいくため、政策経営部内に子どもの貧困対策担当部を設置し、また、有識者を加えた検討会議を設置し、平成二十七年を目安に今後の子どもの貧困対策関連事業の実施計画を定め、対策の充実を図るという好例もではじめた。

■ 教育格差の問題

近年いわれるようになった教育格差という問題も、家庭での経済問題に端を発する。

学習塾に通塾することができる家庭の子は学校の成績が良く、家庭教師までつけることができる子ども(=教育にお金をかけることができる)が難関大学に合格する割合が高い、というのが現状である。東大に合格した学生の保護者の年収を同大生協が調べたデータ*では家庭の年収が約一千万円弱の割合が半数だという。平均的な家庭よりかなり高額である。

筆者は、各家庭の経済事情に子どもの教育状態が左右され、本当に学びたい子どもの伸びる芽を摘む結果となり、ひいては、優れた人材の育成が怠ることは社会的損失でもあると、強く思っている。そのためには、義務教育段階の児童、生徒には十分な教育環境を支援することが必須である。それは、形を変えるなら、各家庭の教育負担を軽減し、教育予算をより増加するような施策で“教育を守ること”が重要となる。

「教育バウチャー制度」が教育再生会議の審議に上ったことがあるが慎重論で先送りになったりしている。

しかし、国際的に比較してみても日本は家庭の教育費用負担がかなり家計を圧迫している。教育費用がかかるから子どもも生めない、というような事態は深刻である。教育へのより多くの経済支援があるべきだと強く主張したい。

(了)

*東京大学が在校生の家庭状況を調査「2010年学生生活実態調査の結果」(二〇一一年発行)世帯年収九百五十万円以上の家庭が五十一・八%。厚生労働省発表では世帯平均年収は約五百五十万円。

 


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