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教育トレンド

日本の大学が知の探究の場でありうるために

 「失われた一〇年が二〇年にもなろうとしていることに疑問を持ちつつも、漫然と受け止めている今の日本こそサーカスの像ではないか。規制緩和や教育制度改革などが全く進まず、閉そく感が漂うのも見無理はない」

 これは、一一月初旬の日経新聞の「明日への話題」で、丸紅会長である勝俣宣夫さんが、書いているものだ。やはり、今の日本の教育の低迷や閉そく感を感じている経済人はいるのだなと思い、印象深いので引用した。この“サーカスの像”という比喩は、サーカスに所属している像は小さい頃より足を鎖につながれているために、大人になって怪力が備わっても鎖を外せない、と思い込んでいることを表現しているのだという。勝俣さんが、某石油大国の大臣と食事をした時に「自分の部下たちはサーカスの像のようで、国の発展に向けた踏み込みが足らない、日本の教育制度を見習いたい」と言われたのだそうだ。だが、待てよ、その日本観は、現状の日本を言い当ててはいない、高度成長時代の日本はそうだったかもしれないが、今は中国を初めとしたアジアの台頭を前に屈している。今の日本こそがサーカスの像ではないか、と危機感を募らせた勝俣さんは「力を合わせて鎖を引きちぎろう」とその文章を結んでいる。

 ■日本の大学の現状

 日本に大学は、現在 765ある。この内、国立は86校、公立は90校、私立は589校である。圧倒的に私立大学が多い。大学進学率は約50%となり、年々増加してきた。大学は独立行政法人化され経営の改善が求められ、その一方では、少子化で私立大学の経営難が問題となってきているのは周知のことである。学部、学科の新設や増加に熱心ではあるが、資金投下に見合う学生獲得はできず、経営には危険信号がともり始めている。従来なかった大学の倒産、閉学という事態も珍しくない。

言うまでもなく、大学の役割は、大きく2つある。それは、知の探究の場であることと、国家の先進的学問のけん引役であることだ。それらが大学が支障なく円滑にできるには、経営基盤がなければならない。しかし、2009年度、大学の定員割れは、私立大学では四割に達した。学生数は今後も減少するのは必須のことである。そう言った中、大学経営の先は、経営効率化と経営の多角化を模索するようだ。

 一つ目は、大学内事務の効率化を外部民間会社に委託する動きである。 大学の学生募集にかかる事務、例えば願書の受付、入試採点後のデータ入力や分析・管理業務など通年、人員はいらなくて時節により多忙になる業務を外部委託するもので、これはフジスタッフ(東京)などが代行している。また、大学でのキャリアカウンセラー派遣業務を行うのはパソナ(東京都)である。学生への就職支援が行きとどいた大学には学生が集まり易いというと言う傾向が強いために、専門企業の手助けを求めた。

 それと、次の学生獲得策は、従来のように高校卒業者のみではなく社会人枠の設定による学生年代層の拡大を模索する動きである。オープンキャンパス、キャリア講座などで、一度社会人となった年代層の人にも大学レベルの教育を施すものである。定型化した従来型の学びとは格段と広がった生涯学習の動きとして、捉えられる。

■海外の中高生と日本の中高生

先頃、今年のノーベル化学賞に北海道大学名誉教授の鈴木章氏と米国パデュー大学特別教授の根岸英一氏が選ばれたことは、日本の学問界の大きな成果として報じられた。が、この成果は、今から20年前以上の研究に対してのものである。今のままの教育をしていたら、今から20年後にノーベル賞級の成果がだせるかどうか、危機感で一杯になる。

根岸教授が、コメントで述べたことが、今の日本の高等教育機関の危機を言い表わしていた。根岸教授は若者に一言と求められて「日本の若者も海外に打って出るべきだ」とコメントした。教授自身が、アメリカに研究の拠点を移し、世界的競争の中で切磋琢磨の中、才能が開花した。

先頃「中学・高校生の生活と意識」調査報告書 (平成20年度調査事業)を見る機会があった。これは、財団法人一ツ橋文芸教育振興会、財団法人日本青少年研究所が本、米国、中国、韓国の中学生と高校生の規範と行動につき、10年前と比較を通して変化を知ろうとするものであるが、その調査項目の中に外国へ留学する希望を聞いた設問があった。

「もし可能なら、外国へ留学したいと思うか」の設問である。その結果、中国の中学生の8割が「留学したい」と回答し、高校生の6割が「留学したい」と回答していた。韓国の高校生も約7割がしたいと答えている。が、日本の高校生約4割,中学生は4割弱で、調査4カ国内では一番低かったのである。その理由として、中国の中高生は「異文化体験ができる」「外国の教育環境がいいから」「言葉の勉強に有利だから」がトップスリーだった。

これらから垣間見えるのは、日本に育っているのは意欲にかける中高生像であって、他国の同学年生との切磋琢磨や競争に身を置くことを選択する道を避けている意識背景である。

■海外

文部科学省が、先10月初旬に発表した「国際研究交流の概要(平成20、21年度)」(国公私立大学、独立行政法人等の計845機関を調査)によると、欧米への長期派遣研究者数がピーク時平成一二年には八千人近くいたのが、半数以下まで減少してきている。内向き志向が現われているようだ。理科系の若手研究者が海外に出ることを避けているが、文科系の国立教育機関やまた官庁、大手企業でも海外での研究や勤務に消極的になっている傾向があるという。この原因としては、教育における競争意識、学問に対する探求心の衰退があるように思える。

同調査では、短期的、一時的流行を研究する傾向が強くあって、長期的研究が少なくなってきている、との報告もあった。日本の教育・学問の向上を目指すには日本の大学を変えることが必須のことである。大学を変えるとその下に続く、高等学校、中学校、小学校の流れも大きく動き、教育改革は進展するであろう。

都内で私塾を運営する知人が最近言っていたのだが、「所得格差が拡大しており、塾に通学出来る子どもと出来ない子どもの教育格差も広がっている。家の経済状態が悪くなって通塾出来なくなったと言ってくる家庭の子でも、優秀な子もいる。親の都合でお金がはらえなくなって大学進学もできないとなると、人材育成からみると大変にもったいないことだと常々思っている」という。これからの日本の行く末を考えれば、教育投資をより増加するなど、手厚い教育施策を願うものである。(了)

 (月刊カレント誌2010年12月掲載原稿)

 


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