幼少期の読書習慣の大切さ 学校図書館の充実を
◆読書活動の人生への影響
読書活動はどのように人生への影響があるか?その興味深い調査結果が国立青少年教育振興機構の報告書「子どもの読書活動の実態と
その影響・効果に関する調査研究」(*二〇一三年二月二三日付発表・詳細は後述)ではっきりとわかる。まず、結果からみてみよう。
<読書が作る未来志向の精神>
◎中学生・高校生と読書の関係
就学前から中学時代までに読書活動が多い高校生・中学生ほど、「未来志向」、「社会性」、「自己肯定」、「意欲・関心」、「文化的作法・教養」、「市民性」、「論理的思考」のすべてにおいて、現在の意識・能力が高い。
特に、就学前から小学校低学年までの「家族から昔話を聞いたこと」、「本や絵本の読み聞かせをしてもらったこと」、「絵本を読んだこと」といった読書活動は、現在における「社会性」や「文化的作法・教養」との関係が強い。就学前から中学時代までの読書活動と体験活動の両方が多い高校生・中学生ほど、現在の意識・能力が高い。
◎社会人と読書の関係
社会人の調査にも青少年と同様の結果が、表れている。子どもの頃に読書活動が多い成人ほど、「未来志向」、「社会性」、「自己肯定」、「意欲・関心」、「文化的作法・教養」、「市民性」のすべてにおいて、現在の意識・能力が高いという結果だ。
特に、就学前から小学校低学年までの「家族から昔話を聞いたこと」、「本や絵本の読み聞かせをしてもらったこと」、「絵本を読んだこと」といった読書活動は、成人の「文化的作法・教養」との関係が強い。子どもの頃の読書活動と体験活動の両方が多い成人ほど、現在の意識・能力が高い。
こういった具体的な傾向がわかると、幼少期からの読書指導の大切さがはっきりとする。一時期、活字離れが深刻である、と言われていたが、本を読まない青少年はあまりに多いため近年では話題にもならなくなってしまった。多種多様なメディアの出現で、特に活字に触れなくても困ることのない生活になっているからだ。知りたいことはテレビが面白おかしくクイズで出しているし、辞書を引かなくてもネット辞書の検索機能があるし、漢字をしらべることが瞬時にできる。
加えて、携帯端末は、地理機能、検索、調べ物、通話に、画像と機器任せでも多くの情報処理ができるので分厚い辞書を引く、年鑑を調べる、資料を探す、といったことが片手間に容易にできるような時代なのである。が便利の一方では技術の進歩が人の思考の停止もさせる。
■幼少期の読書
幼少期にこそ本を探したり、図書館に行ったり、書店で取り寄せてもらったり、という面倒な作業を伴う「読書」を薦めるのは、前述した調査からもわかるように、「幼少期に読書をした」人間は「読書をしない」人間と比して、長じてからの意識の高さ、文化教養の深さがくらべものにならないほどあるのである。幼少時代、中学校時期の「読書習慣」は、代えがたい教育だということができるのである。
本を読むことが好きである、本を読むことが苦にならない、といった生活習慣が基礎となるのは、すなわち「学びへの態度」の醸成なのである。
基礎基本という。そういった学習へ向き合い態度、調べる、探す、知る喜びを充足する楽しみが「読書」にあることは誰しもが疑わない。それは、単純に携帯やパソコンのタイピングで文字とも画像とも言えないような記号や略号、びっくりマークや略語をやり取りしているだけでは育てることのできない「高度な能力の育成」である。
■学校での指導と学校図書館の現状
義務教育段階で、意図的に言語指導の一環である読書の習慣を作らなくてはならない。では義務教育年代の育つ学校の学校図書館にはどのくらいの蔵書数があるのか。文科省では、「学校図書館図書標準」を作っており、一九九四年に「学校図書館図書整備新五カ年計画」を策定して目標達成をめざしてきた。
学校図書館の図書の保有基準は学校規模によっておよその蔵書数が決まっている。
例えば、小学校で二学級だとすると三千冊、五学級であると四五六〇冊、中学校では二学級までは四八〇〇冊、七学級から十二学級まででは七三六〇+六四〇冊×(学級数-2)といった様子である。だいたい平均とシエナ小学校では九千六百一冊、中学校で一万千八百七十四冊、高等学校で二万五千五百二十四冊となっている。
この購入費用は小学校で約五十三万円、中学校で七十四万円、高等学校で八十二万円となっている。
文部科学省は平成二十四年度から「学校図書館図書整備5か年計画」として毎年度二百億円を学校図書館の蔵書整備のために予算化している。しかし同協議会の調査によると、学校図書館の蔵書について「十分」としている学校は約二十四%に過ぎず、約四十二%の学校が「不足している」と回答。学校図書館整備予算は、自治体がさまざまに使える地方交付税の中で措置されているため、実際には学校に図書予算を回していない自治体もあるのが現状だ。学校図書標準を達成している学校は小学校で約六割、中学校で約五割と不足の感はいなめない。
■朝の読書活動の意義
朝の読書推進協議会は平成二十六年度に朝の読書で子どもたちに読まれた本の調査結果を公開した。全国の小中学校のおよそ八割程度が導入しているのが朝の読書活動である。漫画や雑誌以外の本なら何を読んでも自由で、感想文を書かせることもしないが、この教育活動はよい読書習慣をつけ、一時間目の授業への集中力が上がるなど効果はある。同協議会によると、2014(平成26)年度に「朝の読書」で読まれたベスト五は次の通り。
*小学校
(1)「かいけつゾロリ」(2)「科学漫画サバイバルシリーズ」(3)「学研まんが新ひみつシリーズ」
(4)「怪談レストラン」「しずくちゃん」「一期一会」(5)「冒険!発見!大迷路」
*中学校
(1)「空想科学読本」(2)「図書館戦争シリーズ」「『ぼくら』シリーズ」「カゲロウデイズ」
(3)「謎解きはディナーのあとで」(4)「ハリー・ポッター」 (5)「ソードアート・オンライン」
具体的には、このような図書群に人気があるようだが、筆者としては、子どもに読みやすい図書が良い書物であるというより、やや困難であっても生涯に出会える図書として、実話や歴史の本や偉人伝等が増加することを望みたい。現実的には担任が図書指導をすることはかなりの負担になるのでぜひ「学校図書館司書」の充実に予算をかけてもらいたい。
学校司書を配置している学校の割合は小中学校では約半数、高校で約六割とこちらも不足である。
言語の習得が人の知的満足度を高め、意欲や将来展望に大きな影響があることは疑う余地がない。日々の読書活動でその基礎が醸成されることを考えるならば、図書の充実、指導者の措置にこそ安定的な予算措置を講じるべきであろう。(了)
*報告書「子どもの読書活動の実態とその影響・効果に関する調査研究」
調査は成人調査と青少年調査の二つ。成人調査では二〇一二年二月にウェブアンケートによる質問調査を実施し、計五千二百五十八回答。青少年調査では、同年三月に、サンプリングによる学校選定を行なった上で学校を通した質問紙調査を実施、高校二年生一〇二二七人(二百七十八校)及び中学二年生一万九百四十一人(三百三十八校)、合計二万千百六十八人からの回答。